保守政権下での安全保障問題に関する新聞報道と首相支持率

先月、Discursive diversion: Manipulation of nuclear threats by the conservative leaders in Japan and Israelと題する論文が公表されました。この研究は日本学術振興会に支援され2019年に始まった日本とイスラエルの研究者による共同プロジェクトで、両国のリベラルと保守派の新聞を2009から2018年に渡って比較し、法案成立や総選挙の前に、新聞記事が北朝鮮またはイランの核兵器の脅威をどの程度強調したかを分析しました。この期間を通して、日本(安倍政権)とイスラエル(ネタニエフ政権)の両国では保守政権が続いていました。

新聞記事の内容分析では、Latent Semantic Scalingという準教師あり機械学習のアルゴリズムを用いており、[危険, 敵意, 壊滅, 危害, 衝突, 攻撃]を脅威について、[対話, 支持, 機会, 交渉, 成功, 貿易]を安全についての種語として選びました。ヘブライ語の記事の分析でも、同様な種語を選んでいます。一番目の図は、種語との意味的な距離によって、コーパス内の語がどのように重みづけされたかを示しており、差し迫った武力行使を意味する語が正の値を得て、核兵器が開発途上であることを意味する語が負の値を得ていることがわかると思います。

当研究では、日本の安全保障制度改革に注目し、特定秘密保護法(L1)、集団的自衛権容認(L2)、安全保障関連法(L3)、テロ等準備罪(L4)の成立に至る60日間にリベラルと保守派の新聞が、北朝鮮の脅威を強調する度合いがどの程度変化したかを統計的に分析しました。3番目の図では、安全保障関連法案(L3)の時だけ、読売が朝日より脅威を強調したことが示されています。イスラエルでは、ネタニエフが苦戦した2015年の総選挙の前に、保守派の新聞がイランの脅威を強調していたことが示されました。

当研究での統計分析の結果は、以前から指摘されていた安倍政権と保守系メディアの近しい関係を明示するものであり、LSSを用いた新聞の量的テキスト分析が政治コミュニケーションの分野において有効であることを証明したと考えています。イスラエルでは、実際に保守系新聞のオーナーとネタニエフの癒着が明らかになり、両者が有罪になっています。

さらに、本研究では新聞の内容分析と並行して心理学的な実験を両国で行い、脅威を強調されている新聞記事を読んだ場合、強調されていない記事を読んだ場合と比べて、指導者の支持率が有意に高まることが示されました。この実験は、Could Leaders Deflect from Political Scandals? Cross-National Experiments on Diversionary Action in Israel and Japanという論文として発表されています。

当研究での発見を総合すると、武力紛争下で指導者の支持率が高まる、旗の下の集結現象(rally-around-the-flag phenomena)が必ずしも、実際の武力行使を伴わずとも、マスメディアを操作するだけで発生し、保守的な政治家が自身の政治的な利益のために、安全保障上の脅威を強調しがちであると言えるでしょう。

Posts created 113

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

Related Posts

Begin typing your search term above and press enter to search. Press ESC to cancel.

Back To Top